フルタイムで働けない優秀な人材を採用したり、人材不足を補ったりできる「時短勤務正社員制度」。
しかし、現状は日本企業で導入しているところは決して多くないのが実情です。具体的にどんな企業が導入していて、どんな効果があったのか気になる方も多いでしょう。
そこで本記事では、時短勤務正社員制度の成功事例を紹介するとともに、現状の課題やスムーズに導入するためのポイントを解説します。
時短勤務正社員制度の導入を考えている企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
まずはじめに、時短勤務正社員制度の概要を詳しく解説します。なぜIT業界で必要性が高まっているかについてもあわせて見ていきましょう。
時短勤務正社員制度とは、短時間勤務であってもフルタイム正社員と同等の扱いをする雇用制度のことで、「短時間制社員制度」と呼ばれることもあります。
フルタイム正社員は、1日8時間で週5日で勤務しますが、時短勤務正社員はこれよりも短い労働時間で正社員契約を結ぶことになるのです。
時短勤務正社員と似たものとして「時短勤務制度」という言葉を耳にしたことはありませんか?
これは「短時間勤務制度」とも呼ばれ、時短勤務正社員とは適用される条件が異なります。
時短勤務制度は、3歳未満の子どもの育児もしくは介護が必要な方を対象にした制度です。一方、時短勤務正社員制度には特別適用するための条件はありません。
最近では、IT企業で時短勤務正社員制度の導入が進んでいます。IT業界では、今後深刻な人材不足が問題になると言われており、より多くの人材が働きやすい環境を整えることが課題です。
その点、時短勤務正社員制度では、これまで育児や介護などを理由にフルタイムでの勤務が難しかった人材を正社員として雇用できるため、優秀な人材を幅広く採用できる可能性があります。
時短勤務正社員制度にはまだまだ課題があるものの、人材不足を解消するための一手として、IT業界では需要が高まっているといえるでしょう。
日本アイ・ビー・エムでは、時短勤務を積極的に導入しており、通常の60%や80%の勤務日数で仕事ができます。つまり、時短勤務を利用すれば週休3日~4日で働けるわけです。
また、育児や介護などで仕事の継続が難しくなったら、フルタイムから時短勤務に切り替え、状況が変われば元のキャリアに復帰できる仕組みも用意してます。
ライフステージに合わせた働き方が可能で、なおかつ長期的なキャリアを形成できるでしょう。
情報通信業を営んでいる株式会社ウィルドでは、「個々の社員が最大限にその能力を発揮できるように環境を整える」をモットーに短時間勤務を取り入れています。
きっかけはとある女性社員の離職問題でした。女性社員が妊娠で退職しなければならないとなった際に、1日6時間の短時間勤務を取り入れました。
以降2人目の子どもを妊娠した際にも、テレワークなども取り入れることで育児との両立が可能になったそうです。
株式会社VISIONARY JAPANは、多様な働き方を提案している企業です。
時短勤務はもちろんのこと、フレックスタイム制度も導入しており、フルリモートでの勤務も認めているので、育児や介護をしながら空き時間を使って業務に当たることも可能です。
また、初年度から1,500万円を超える年収を狙える可能性があるのは大きな特色です。頑張り次第で報酬面に反映される、やりがいのある職場と言えます。
時短勤務正社員制度を導入することで幅広い人材を確保したり、離職を防げたりするでしょう。
しかし、やり方を間違えるとうまく機能しない恐れもあります。制度をうまく導入するために、以下の注意点をおさえておきましょう。
時短勤務正社員制度を成功させるためには、経営陣のコミットメントが求められます。
経営陣が旧態依然とした働き方に固執しているようであれば、時短勤務を希望する正社員がいたとしても、制度自体が有名無実化しかねません。
従業員のワークライフバランスや、ウェルビーイングを優先した働き方へ意識変革することが求められます。まずは経営陣が考え方を変えることで、組織文化の変化がもたらされるわけです。
時短勤務正社員制度を導入する際は、評価制度についても問題になりがちです。しかし、短時間勤務でも正社員であることに変わりありません。
時短正社員であっても、フルタイムの正社員と同じ制度・基準で評価することが、社員間の不公平感をなくすポイントといえるでしょう。
また、時短正社員の目標管理をどうするかも課題の一つと言えます。
時短勤務正社員の目標設定をする際は、限られた時間でも達成できるような目標になっているか確認してください。
達成が到底無理な目標設定では、時短正社員の評価が不当に下がってしまう恐れもあります。
時短勤務正社員制度を成功させるためには、コミュニケーション手段を充実させることも重要です。
上司とは定期的な1on1ミーティングを行うほか、チャットツールやオンラインオフィスなどのツールを活用して、時短勤務やリモートワークであってもコミュニケーションが取りやすい環境を整えてください。
時短勤務正社員制度を導入する際は、就業規則にルールを明記する必要があります。
時短勤務正社員制度を利用するための条件や休日、勤務時間などを記しましょう。
時短勤務正社員制度に関するルールを決めても、実際に運用してみると現実に沿わない部分が出てくるかもしれません。時代の移り変わりによって、ルールを変えるべき項目も出てくるでしょう。
その際は、現実やそのときどきに合わせて制動をフレキシブルに変更することを意識してください。
IT企業で時短勤務正社員制度の導入を検討しているところもあるでしょう。制度をスムーズに導入するためには、いくつか押さえておくべきポイントがあります。
時短勤務正社員制度を導入する場合は、労働者の勤務時間が短縮されます。当然、行える業務の量も減るので、減った分の業務をどうするのか検討しておきましょう。
現状の社員で補うのか、新たに作業を担当する人材を確保するのか、業務プロセスの見直しが必要でしょう。
時短勤務の正社員がいることでフルタイムの正社員の仕事量が増えれば、社員の不満が溜まりかねません。重要度の低い業務を廃止したり、業務プロセスをシンプルにしたりなど、職場全体で業務効率化に取り組みましょう。
時短勤務正社員に対しても、フルタイムの正社員と同等の教育を行う必要があります。
教育機会を同等にするために、教育方法の見直しが必要なケースもあるでしょう。
たとえば、日々の仕事を通じて教育するOJT手法をとっている場合、時短勤務正社員は勤務時間が短い分、教育を受ける機会も限定されます。
追加の教育が必要な場合は、別で教育機会を設ける必要があるでしょう。
また、時短勤務正社員の人材配置についても注意しましょう。社員のこれまでのキャリアやスキルを踏まえて、どの部署に行けば能力発揮できるのか慎重に検討してください。
IT企業では、セキュリティ対策が必須です。
時短勤務正社員制度を導入した場合、より多くの社員が分担して業務に当たることになるでしょう。なかには、在宅勤務で仕事をする人もいるかもしれません。
そこで課題になるのが、これまで以上に強固なセキュリティ対策の導入です。
IDやパスワードの管理徹底を従業員に周知するほか、テレワークをする場合の運用ルールの徹底も重要なポイントです。
セキュリティソフトウェアの適切なアップデートやアクセス制限の設定も検討しなければなりません。
時短勤務正社員制度を導入しても、社員からの理解を得られなければ、制度が会社全体に浸透することはありません。そこで、社内文化の醸成が進められるような方策を検討してください。
そのためには、マネジメントの見直しや密なコミュニケーションを意識してください。
制度導入の必要性をしっかり話し合ったり、説明したりすることで、社員の理解が得られるでしょう。
最後に、時短勤務正社員制度に関する今後の展望や課題について見ていきましょう。
時短勤務正社員制度を導入することで、フルタイムで働けない正社員が出てきます。
企業は、勤務時間が限定された正社員の仕事をリカバリーするための方策を検討しなければなりません。そこで注目されているのが、AIや自動化技術の活用です。
人間のできないところをAIや自動化技術が補うことで、フルタイム正社員の業務量を増やすことなく制度を運用できるでしょう。
自動化技術は今後どんどん進化する可能性があるため、積極的に導入することで時短勤務正社員制度を採用しても円滑に業務を進められます。
今後、会社でグローバル展開の可能性がある場合は、海外とのやり取りについても時短勤務正社員に配慮する必要があります。
たとえば、時差の関係で時短勤務の正社員とうまくコミュニケーションが取れない可能性が十分にあるでしょう。その部分をほかの社員がフォローし、情報共有するルール作りが必要です。
また、海外の事業所に派遣された場合、時短勤務が継続できているかの監督体制も必要になるでしょう。このように海外で時短勤務している正社員への配慮も十分検討すべきです。
時短勤務正社員制度を導入する目的の一つに、社員のワークライフバランスの向上が挙げられます。
しかし、時短勤務正社員制度以外にもワークライフバランスを向上する手段はあります。時短勤務正社員制度が自社に向いていない場合は、ほかに導入できる制度はないか検討してください。
たとえば、フレックスタイム制度を導入することで、出勤時間を自由に決められます。また、テレワーク制度を導入すれば、通勤時間を勤務時間に充てられるのでプライベートな時間の確保が可能です。育児や介護をしながら同時並行で仕事ができます。
時短勤務正社員制度をIT業界に導入することで、介護や育児をしながら仕事を継続できる人材も確保しやすくなります。そのためには、まずは経営陣の理解が必要です。またフルタイム正社員との間で差の生じないようなプログラム作りが求められます。
一方で時短正社員が現れることで、フルタイム正社員の負担が増大しては元も子もありません。そうならないために業務プロセスを見直して、無駄な作業を省くなどの改革が必要でしょう。
日本では、さまざまな企業が時短勤務正社員制度を導入しているので、本記事で紹介した成功事例を参考に、自社へも導入できないか検討してください。