時短勤務正社員制度の導入を考えている企業のなかには、時短正社員の給与設計について悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
時短正社員であっても、給与は原則フルタイム正社員と同等に考えるべきです。しかし、計算方法や福利厚生とのバランスに悩むことも多いでしょう。
本記事では、時短勤務正社員の給与設計について、基本的な考え方や具体的な給与設計例を紹介します。ぜひ参考に、公平な給与設計に役立ててください。
近年では、国の進める働き方改革の一環として、時短勤務正社員制度を導入するIT企業も現れつつあるのが実情です。まずは、IT業界における時短勤務正社員の現状と課題について見ていきます。
時短勤務とフルタイム勤務との大きな違いは労働時間です。
フルタイム勤務とは、職場で決められている正規の労働時間に基づき勤務する労働者を指し、労働時間は1日8時間、週5日というのが一般的です。
一方、時短勤務とはフルタイムよりも短い、限定された時間だけ勤務するスタイルです。
1日の勤務時間や働く曜日は限定的なので、ワークライフバランスの取れた働き方ができ、プライベートの時間が確保しやすくなります。
ここでは、労働に関連する各法規と時短勤務正社員の兼ね合いについて見ていきましょう。労働基準法や育児・介護休業法との関係性について紹介するので、導入を検討している法人は参考にしてください。
IT業界では、時短勤務で働いている人材も少なくありません。具体的には、以下のような職種では、時短勤務正社員が多いようです。
時短勤務が設けられる背景には、慢性的な人材不足が関係しています。
少子高齢化などで、IT業界は人手不足の状況が続いています。少しでも人材確保するために時短勤務を可能にして、幅広い人材に募集をかけるわけです。
また、女性の長期キャリア形成の推進も背景にあります。現在の日本では、女性は結婚や出産すると育休をとったり、離職したりするのが一般的です。そこで時短を認めることで、家事や育児と両立しながら働き続けられる新たなスタイルが求められています。
時短勤務正社員制度を導入するにあたって、気をつけなければならないのは給与体系の設計です。ここでは、時短勤務正社員制度を採用する際の給与設計に関する注意点を紹介します。
同一労働同一賃金とは、働き方によって待遇に差がつかないようにする考え方です。
そもそもこの考え方は、正規雇用と非正規雇用の待遇面の格差是正を目指したものでした。しかし、最近では時短勤務の待遇差を解消するために同一労働同一賃金の採用を目指す動きも見られます。
雇用形態に関係なく、同じ業務や責任のなかで働いているのであれば賃金も同一にすべきという考え方です。
時短勤務だからという理由で、フルタイム正社員と給与面で差をつけてはなりません。
給与体系は、時間比例方式と成果主義の2つに大別されます。
時間比例方式とは、労働時間に合わせて給与を決める考え方です。一方、成果主義とは成果物の質などをベースに報酬を決める方式です。
IT業界では、後者の成果主義を採用しているところが多く、成果をきちんとあげられれば、労働時間が短くても問題ないという考え方が浸透しているため、時短勤務との親和性は高いと言えます。
IT業界の場合、成果主義を採用しているところが多い傾向にあります。
そこで、評価基準として参加するプロジェクトの結果や貢献度が重視されるでしょう。また、社員それぞれが設定した目標の進捗度も評価の一つになるはずです。
IT業界の場合、サーバーダウンなど突発的なトラブルはつきものです。そのようなトラブルが起きた場合に問題解決を円滑に進められるかどうかも評価に組み込むべきでしょう。
IT職種別の時短勤務給与設計例は以下の通りです。
ただし、企業の規模や業績、個人のスキルや経験、時短勤務の割合などによって変動する可能性があることに留意してください。
プログラマー・エンジニアの時短勤務給与設計例は以下のようになります。
基本給 |
フルタイム勤務時の基本給をベースに、時短勤務時間に応じて按分する。 |
残業代 |
時短勤務時間帯を超えて働いた場合は、残業代を支給する。 |
成果報酬 |
達成した成果に応じて、インセンティブやボーナスを支給する。 |
資格手当 |
保有する資格に応じて、資格手当を支給する。 |
調整手当 |
時短勤務によって発生する業務調整などの負担を考慮し、調整手当を支給する。 |
プロジェクトマネージャーの時短勤務給与設計例は以下のようになります。
基本給 |
フルタイム勤務時の基本給をベースに、時短勤務時間に応じて按分する。 |
管理職手当 |
理職としての役割を担う場合は、管理職手当を支給する。 |
成果報酬 |
プロジェクトの成功や目標達成に応じて、インセンティブやボーナスを支給する。 |
調整手当 |
時短勤務によって発生する業務調整などの負担を考慮し、調整手当を支給する。 |
プロジェクトマネージャーの時短勤務給与設計例は以下のようになります。
基本給 |
フルタイム勤務時の基本給をベースに、時短勤務時間に応じて按分する。 |
残業代 |
時短勤務時間帯を超えて働いた場合は、残業代を支給する。 |
成果報酬 |
制作したデザインの品質や顧客満足度に応じて、インセンティブやボーナスを支給する。 |
調整手当 |
時短勤務によって発生する業務調整などの負担を考慮し、調整手当を支給する。 |
時短勤務とほかの働き方を併用することで、作業効率性をあげる方法もあります。
在宅勤務やフレックスタイム制と時短勤務を同時に導入することが、IT業界で広がっています。
たとえば、3時間だけ打ち合わせのため出社して、残りはリモートで作業を進めるなどの働き方ができる企業も。同時に、フレックスタイム制も導入が進んでいます。
通常の時短勤務の場合は、1日の労働時間が決められています。一方、フレックスタイムでは、一定期間の労働時間を満たせば、あとはその人の自由裁量で働けるスタイルです。
リモートワーク時には、従業員の生産性維持と評価が難しくなるので、その部分にも留意しなければなりません。
監視ツールの導入、成果指標の評価制度など、生産性向上の工夫と同時に公正かつ納得感のある評価制度を構築することが重要となります。
時短勤務を導入するにあたって、福利厚生と給与のバランスも考慮しましょう。適切なバランスを保つことで、従業員の満足度やモチベーションに大きく影響を与えます。
時短勤務を希望する人のなかには、育児や介護との両立したい人も多いため、家事サポートサービスや専門施設の利用を福利厚生の一環として取り入れるのもよいでしょう。このようなサービスや施設を活用できれば、育児や介護の負担も軽減可能です。
福利厚生のうち、スキルアップ支援制度の充実は特に重点的に行うことが推奨されます。
フルタイムの社員に比べると、やはりどうしてもキャリアアップがしづらい時短勤務正社員ですので、その分高いスキルを得ることでキャリアアップを目指していきたいと考える人も多いです。
リスキリング補助金を活用した研修サービスの導入やeラーニングツール等の導入も選択肢となるでしょう。
時短勤務正社員のキャリアパスと昇給の仕組みも入念に設計する必要があります。
キャリアパスを明確にすることで、従業員のモチベーション維持も図れます。フルタイムに復帰するための条件を設定したり、いきなりフルタイムに戻すのではなく段階的に徐々に戻したりなどの対策を検討しましょう。
また、時短勤務正社員のなかには、いずれはフルタイムに復帰したいと考えている人もいるでしょう。
そのため、フルタイム正社員に復帰するためのキャリアパスについても明示する必要があります。
時短勤務からフルタイム正社員にいきなり戻るのが難しければ、ほかの制度を併用するのも選択肢です。
たとえば、フルタイムの一部を在宅勤務にして出勤しなくてもいいようにする、フレックスタイムを導入してフルタイムでも勤務時間は労働者の自由裁量にするなどの対策です。
このような対策があれば、フルタイム復帰しても労働者の負担を最小限に抑えられるでしょう。
IT業界における時短勤務は、今後も普及していくことが期待されています。
背景の一つには、AI・機械学習などの技術革新による業務効率化が挙げられます。現在人間が行っている作業の多くをAIが担当することになれば、週4日勤務制の実現が可能という専門家もいるほどです。
今後のIT業界においては、AIツールやITツールの導入がさらに進み、より効率制が重視されるようになるでしょう。そうした背景から働き方としては、時短勤務やフレックス制導入の加速が予測されます。
また、IT業界ではすでにテレワークの導入が進んでいます。コロナ禍によって自粛生活を強いられたなかで、テレワークに移行する企業も多く見られました。
テレワークであれば通勤する手間も省けますし、働く時間や場所なども自由に決められます。これからはIT業界においても、より柔軟で多様な働き方が浸透するのではないかと見られています。
時短勤務を導入するにあたって、関連法規の順守と社会的責任を果たすことを意識する必要があります。
労働基準法では、1日8時間、週40時間を超えて労働させてはならないと定めています(第32条)。しかし、法定労働時間よりも短い時間で働く「時短勤務」は、労働者の申し出や特定の事情に基づき認められています。
たとえば、突発的なトラブルなどが生じた際に時短勤務している従業員に残業をお願いする場合もあるでしょう。
時短勤務の労働者が所定外労働をした場合、基礎時給に残業した時間数をかけて上乗せする残業代を算出します。また、休日出勤や深夜労働をした場合には労働基準法で定められた割増率を反映しなければなりません。
こうした法制度を理解したうえで、時短勤務を取り入れることが大切です。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の推進は、現代社会において企業にとって非常に重要なテーマとなっています。D&Iとは、多様な人材を積極的に受け入れ、それぞれの能力を最大限に引き出し、活かしていくことです。
時短勤務の導入は、こうしたダイバーシティ&インクルージョンの推進にも寄与します。
IT企業のなかで時短勤務を推進しているところも見られます。
たとえば、日本のIBMでは「e-ワーク制度」と短時間勤務制度の併用を推し進めています。前者は場所、後者は時間のフレキシビリティを目的とした制度です。
評価に関しては成果主義、処遇決定は勤務時間に応じて行い、本給・ボーナスともに勤務時間ベースで設定されます。
なお、短時間勤務は以下4つから選択可能です。
給与は、フルタイム換算した場合に対して、1と3であれば50%、2と4を志望した場合は70%支給されます。福利厚生に関してはフルタイム正社員と同様です。
Amazonでは、週30時間労働を試験的に導入しています。週30時間労働は従来の週40時間労働の人と同じ福利厚生を受けることが可能です。しかし、給料は75%に削減されます。
このように時短勤務正社員の給与は、労働時間をベースに計算されることが多いといえるでしょう。
時短勤務を導入することで、育児や介護などとの両立もしやすくなるほか、ワークライフバランス重視の人材も確保しやすくなるでしょう。
ただし、時短勤務を導入する際には給与体系や福利厚生をどうするかで悩むケースも多いはずです。
日本国内外のIT企業で、時短勤務制度を導入しているところはいくつも見られます。今回紹介した事例も参考にして、どのような待遇にすべきかしっかり検討してください。