正社員といえば、1日8時間・週5日労働するフルタイムの労働者というイメージがあるで
しょう。しかし最近では、1日8時間未満、週5日未満の勤務でも正社員扱いになる「時短勤務正社員制度」を導入する企業も増えています。
本記事では、時短勤務正社員制度の概要や関連法規との関連性について解説。メリットや導入事例なども紹介します。時短勤務正社員での就職を考えている方や、時短勤務正社員制度の導入を検討している企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
まずはじめに、時短勤務正社員制度の概要や現状について解説します。時短勤務正社員の定義や特徴、どんな業界で導入が進んでいるのかも紹介するので、基礎知識をここでおさえておきましょう。
時短勤務正社員とは、1週間の所定労働時間はフルタイム社員より少ないものの、フルタイム正社員と待遇が同等の労働者のことです。また、フルタイム労働者と同様に、無期労働契約を締結しています。
最大の特徴は、フルタイム正社員と待遇が同等であること。稼働時間は少ないものの、時間当たりの基本給や賞与、退職金などの算定基準はフルタイム社員と同じなので、短時間しか勤務できない人でも、安心して働くことができます。
時短勤務正社員制度は、育児や介護と両立しなければならない人材や、ワークライフバランス重視の人材を採用するために導入する企業も少なくありません。自分のできる範囲で活躍してもらうことが目的の制度です。
ここでは、労働に関連する各法規と時短勤務正社員の兼ね合いについて見ていきましょう。労働基準法や育児・介護休業法との関係性について紹介するので、導入を検討している法人は参考にしてください。
時短勤務正社員を雇用するにあたっては、労働基準法に基づく通常の正社員と同等の扱いで待遇しなければなりません。
労働基準法とは、労働条件に関する最低限の保証について定めた法律で、使用者が労働者から不当に搾取するのを防止することを目的に定められています。
違反すると罰則規定があるので、法律順守した就業規則を策定しなければなりません。
育児・介護休業法では、時短勤務の規定が設けられています。
3歳未満の小さなお子さんを育てていたり、要介護の家族の面倒を見ていたりする労働者が希望すれば、労働時間を短縮できる制度です。
条件を満たした労働者が時短勤務を希望したにもかかわらず、使用者がその申し出を拒否すると違法になります。
なお、時短勤務正社員においては、雇用継続期間が1年未満の場合、育児・介護休業法の対象外になる可能性があります。
育児・介護休業法の適用外になる従業員の取り扱いについては、慎重に判断する必要があるでしょう。
時短勤務正社員制度を導入する場合、注意しなければならないのが同一労働同一賃金の原則です。
これは、勤務形態に関係なく同じ仕事や責任を課す場合は待遇は一緒にすべきという考え方です。この原則はすべての待遇を対象にしています。
時短勤務🈢であってもフルタイム正社員と同じ仕事を任せる以上、同じ待遇で処遇しなければなりません。賃金などの待遇はフルタイム正社員と同じ時間賃率やボーナス、退職金の算定方法を採用する必要があるでしょう。
IT企業で時短勤務正社員制度を導入する際は、時短正社員の権利や義務を守る必要があります。ここでは、押さえるべき権利や義務について紹介するので、ルール作りにあたっての参考にしてください。
時短勤務正社員の基本給は、同じ職種や職位のフルタイム正社員と同じ時間賃料をベースに考えましょう。労働時間に応じて、フルタイム正社員から減額したものを給与として支給する形になります。
また、諸手当の問題もあるでしょう。手当についてはそれぞれの支給目的や基準を踏まえて、支給額を検討しましょう。
時短勤務正社員であっても、残業は原則認められると思ってください。
ほかの雇用形態と残業や休日出勤に関する取り扱いは同じです。ただし、他の雇用形態同様、時間外勤務分の給与は上乗せしなければなりません。
しかし、もし残業や休日出勤を行ったことで、時短正社員の生活に支障が出ては制度の意味をなさなくなります。
育児や介護などの両立ができることを前提に検討してください。
時短勤務正社員の基本的な待遇は、フルタイム正社員と同様にしなければなりません。福利厚生に関しても、フルタイム正社員と同じ扱いになると思ってください。
また、退職金制度がある場合は勤続年数ベースで算定している法人も多いでしょう。時短勤務正社員制度を利用した従業員には、その期間中の勤続年数も通算するのが原則であると覚えておきましょう。
時短勤務正社員制度を導入してルールを設計する際は、さまざまなことに留意する必要があります。
ここでは、とくに注意しておくべきポイントを紹介するので、制度を策定する際の参考にしてください。
時短勤務正社員制度を導入する際、就業規則には以下のような事項を明記しておきましょう。
細かくルール規定しておかないと解釈の齟齬が生じ、トラブルに発展しかねません。
時短勤務正社員とフルタイム正社員は、同じ評価制度を導入するのが原則です。ただし、短時間勤務である点も留意しなければなりません。
時短勤務である分、当然勤務時間はフルタイム正社員よりも少なくなるので、対応できる業務量も減少します。
勤務時間が短い点を考慮して、実績や成果を評価するように管理職へ周知徹底する必要があるでしょう。
プロジェクト管理とワークシェアリングの概念を取り入れましょう。
ワークシェアリングとは、仕事を労働者で分け合って負担する制度のことです。たとえば、ある業務の遂行に8時間の労働時間が必要な場合、1人で8時間業務するのではなく、2人で4時間ずつ勤務することになります。
ワークシェアリングを実現するには、既存の人材でやりくりするか、新しく人材を採用するか、アウトソーシングするかとさまざまな選択肢が考えられるでしょう。
時短勤務正社員の有給休暇に関するルールも把握したうえで、制度を設計しなければなりません。
有給付与の条件は、1年間の全労働日数の8割以上出勤していることです。
また、週5日勤務しているのであれば、たとえ時短でもフルタイム正社員と同じ有給日数を付与しなければなりません。
ただし、週4日以下で週の所定労働時間が30時間の場合、出勤日数や勤務時間に応じて付与することになるでしょう。
時短勤務正社員制度を導入するにあたって、IT業界ならではの問題点にも留意してください。以下の課題についても検討したうえで、適切な対策を講じましょう。
IT企業の場合、業務の大部分でパソコンを使うでしょう。その場合、リモートワークと時短勤務を組み合わせることで、より広く人材を獲得できるかもしれません。
リモートワークが可能であれば育児や介護などと同時並行しやすく、空き時間を使って仕事ができるでしょう。ただし、リモートワークを併用する場合、勤怠管理に関する対策を検討しなければなりません。リモートワークに対応した勤怠システムを導入して、長時間労働にならないように調整する必要があります。
時短勤務正社員には、スキルアップやキャリア形成支援もフルタイム正社員と同等に行うのが決まりです。そこで問題になるのは、時短正社員の教育時間をどう確保するかです。
とくにOJTで教育を行う場合、フルタイム正社員と比較して勤務時間が少ない分、教育を受ける機会が減少します。フルタイム正社員よりも教育の進捗度合いで遅れが発生した場合には、別の教育プログラムを検討しなければなりません。
Off-JTで、日常業務とは別途で教育訓練を行っている場合、時短勤務正社員でも受講可能なスケジュール管理が必要です。
このように時短でも無理なくフルタイムと同等の教育が受けられるように配慮しましょう。
IT企業では、チームを組んでプロジェクトに取り組むことも少なくありません。時短勤務正社員制度を導入する場合、彼らとどうコミュニケーションをとるかも大きな課題になるでしょう。
コミュニケーションをとる際には、時短勤務のメンバーのスケジュールを優先すべきです。
時短正社員が稼働している時間を使って会議を開催し、現状や今後の課題について共有するような管理を心がけてください。
IT業界では、システム障害や顧客からの突発的な要請など、緊急事態が時折起こります。この場合の緊急体制をどのように整備するかも検討しなければなりません。場合によっては、時短勤務正社員に残業をお願いすることもあるでしょう。時短正社員であっても、残業をした場合には残量代を支払わなければなりません。
労働基準法で週40時間までは時給分、それを超える部分は割増賃金を支払う必要がある点に留意してください。
時短勤務正社員を導入することで、企業側にも大きなメリットが期待できます。ここでは実際の導入事例を踏まえて、どのようなメリットが期待できるかを見ていきましょう。
時短勤務正社員制度を導入することで、優秀な人材が離職するのを防げるかもしれません。
育児や介護を行っている人のなかには、フルタイムで働くのは難しいという人もいるでしょう。
しかし、時短勤務が可能であれば、育児や介護と両立することもできます。より多くの人材を対象に採用できるので、優秀な人材を確保できる可能性も高まるわけです。
時短勤務正社員制度を導入することで、多様な人材を獲得できるのも企業にとってのメリットです。
たとえば、育児中の夫婦やリタイアした高齢者などの人材を確保できるかもしれません。
最近では、シニア人材のなかにもITに関する豊富な経験やスキルを持っている人も少なくありません。時短勤務で採用することで、経験豊富な社員を採用し、若手社員に教育の役割を任せることも可能でしょう。
とあるIT企業では、女性社員が妊娠をきっかけに退職しようとしたことがありました。
しかし、その社員は創業時からのメンバーで優秀な人材だったので、離職防止のために1日6時間の時短勤務を取り入れることを決定しました。
女性社員は、2人目の妊娠時にもテレワークと組み合わせることで、離職することなく同じ企業で働き続けることができたそうです。
このように優秀な人材が離職するのを防止できるのも、時短勤務正社員制度のメリットと言えるでしょう。
時短勤務正社員制度を導入するにあたっては、企業側だけでなく従業員側も注意しなければならないポイントがあります。
主な注意点を以下で見ていきましょう。
時短勤務になると勤務時間が短縮される分、一日に行える作業量も限定されます。
時短正社員は、限られた条件のなかでどう時間をやりくりするかを検討しなければなりません。
そのためには、業務効率化とタイムマネジメントを今まで以上に意識する必要があるでしょう。
作業のマニュアルやフローチャートを作成しておくと、スムーズに仕事へ取りかかれます。また、今まで会社で使ってきたデータを蓄積して、必要に応じて活用することで作業時間の短縮化を図れます。
時短勤務になれば、働ける量が減少し、スキルの維持や向上が難しくなります。スキルアップするために、自分でも努力を続ける必要があると思ってください。
とくに、パソコンスキルの維持・向上は、IT企業でキャリア継続するために欠かせないことです。
新しいプログラミング言語について隙間時間を使ってマスターするなど、自分で学習する習慣をつけるように心がけましょう。
育児や介護と両立するために時短勤務正社員を希望する人も多いでしょう。
たとえ勤務時間が少なくなっても、育児や介護に時間をとられるので、決して楽にはなりません。そこで重要なのは、ワークライフバランスの調整です。
仕事も育児も、両方とも頑張りすぎてしまって自分の身体を壊してしまっては元も子もありません。体力的に厳しければ、周りを頼ってください。
たとえば育児の場合、託児施設などで子育てのサポートを受けられるサービスがあります。両立することが辛ければ、このようなサービスを活用するのも手です。
最後に、時短勤務正社員制度の今後の展望について見ていきましょう。
時短勤務正社員制度を採用する法人は増加傾向にありますが、その背景には国の推進する「働き方改革」が密接に関係しています。
とくに、女性が長期的なキャリアを形成しやすくするために、時短勤務正社員制度が推奨されています。
出産や育児など、女性は男性と比較してライフイベントにおける変化が激しいと言えるでしょう。そこで時短勤務正社員制度を導入することで、出産や育児で一時的に職場を離れずに済むような取り組みが進められているわけです。
IT企業と言われると、時短勤務は難しいと思う人もいるでしょう。たしかに、納期直前は長時間残業や休日出勤は当たり前の世界という印象があるかもしれません。
しかし、エンジニアのなかでも時短勤務を採用する動きは活発化しています。たとえばアメリカのAmazonでは、週30時間の時短勤務エンジニアで構成されたチームを作る動きがあると言われています。
ほかの職種同様、エンジニアもワークライフバランスを重視する人は今後増えてくるでしょう。
日本で時短勤務正社員制度が推奨されている背景には、女性のキャリア形成があります。しかし、海外を見てみると、そもそも育児するために時短勤務するという発想がありません。
たとえば欧米では、パートナーと対等に交渉を行って子育ての分担を決めます。
また、アジアを見ると家政婦やシッターが安価で利用できるので、そもそも女性が育児と両立しなければならないという発想がありません。
時短勤務で女性が働きやすい環境を作るのも一考です。しかし、日本においてはいまだ根強くある「家事や育児を担うのは女性」という価値観の見直しを進める必要があるでしょう。
株式会社イーチキャリアでは時短正社員制度導入のサポートも行っております、どんなことでもお気軽にお問い合わせください。